「アリスとテレスのまぼろし工場」初見感想 超弩級の怪作、映画館で観るべき
アリスとテレスのまぼろし工場、みてきました。
考察は別記事にするとして、初回で見た素直な感想をここに記録したいと思います。
以下どんどんネタバレ書いてありますので、未視聴の方はまず是非本作を見に行ってください。
岡田監督の田舎嫌いが炸裂
まず、最初にこれを触れないわけにはいかないでしょう。
岡田麿里監督は自伝でも描かれており、またこれまでの作品でも描写されているように田舎(というか地元の秩父)に対する愛憎の感情を作品に表現することが多々あるのですが、そういった特徴が炸裂してて大変面白かったです。
製鉄場で素材を切り出している山については、秩父の武甲山をモチーフにしていることが見え見えです。(武甲山は鉄ではなく石灰ですが)
そもそもこの作品の舞台としている田舎についても、同調圧力や閉塞感、非合理な人間に支配されるコミュニティ、片田舎で燻る若者の感情、田舎に対する悪いイメージのオンパレードを感じる演出でした。
見伏はまぼろしに生きる人たちを閉じ込める檻でもあり、また現実世界の正宗達を、失った娘のまぼろしを追いかけて狭い世界に閉じ込める場所として、全方向から閉塞感を表現しています。
神機狼についても、そういった田舎のシステムを崩さないように、目には見えない力学が動いて現状を維持するといったような、そういった現象を視覚的に見せているようにもみえ、どれだけ田舎を悪く表現すれば気が済むんだと苦笑を通り越しそうな演出には、どこか懐かしさすら感じる部分があります。
「あの花」の頃からこういった感情は隠せていなかったのですが、「空の青さを知る人よ」では大分この感情を隠して、決して正面からではないですが田舎のノスタルジーな良い面も書き出そうとしていた印象を持っていたのですが、今作では岡田麿里が炸裂しているようでこういった田舎演出は痛快でした。
今作もさまざまな好きの形を表現
今作は「恋」をメインの感情として捉えていますが、その恋についてもさまざまなレイヤーで語られます。
園部さんのような、コミュニティの中で影に生きるような人の祈りのような恋、陽菜のような生命力あふれる若々しい恋、時宗さんと正宗の母のような、大人の責任を感じてのそれでも抑えられないような恋、正宗と睦実のような正面からぶつかれ無いどこか不器用な恋、五実のような純粋な気持ちを表現する恋。
どの恋の形も、岡田麿里らしいどこか生々しさを伴いながら、そのほぼ全てが肯定的に描かれているのが、とても気持ちの良い試聴後感(?)をもたらしてくれるのが良かったです。
その中でも、恋ではなく愛と感じる関係性が 2 つだけありました。
一つは正宗の母からの正宗に対する愛です。
正宗の母はおそらく時宗さんの好意をずっと知っていながら、世界が終わる最後まで良い母親でいようとする、まぼろし世界の終盤ではかなり特異な人物でした。これは一重に母の愛だと思いますし、その他の「恋」が生々しい一方で、岡田麿里の母という存在に対するイデアを感じさせる存在になりました。
もう一つは、睦実からの五実に対する愛です。
睦実はあえて五美に対して冷たい対応をとって育てていましたが、劇中の様子を見るにかなり早い段階で現実から来た子供であり、そして自分の娘であることを知っていたのではないでしょうか。もしくは劇中でも本人が語るように、本能的に何かを感じていたのかもしれません。
そういった中で、関係性を深めることをあえて拒否したところについて、もちろん正宗に対する恋心へのあべこべでやっていたり、何らかの反抗心からという点もあるのだと思いますが「五実をまぼろしに取り込んではいけない」という気持ちがどこかにあったのではないでしょうか。
また、ラストのシーンで列車から現実に返す際も、彼女は五実に対して優しく、五実の将来を心から祝福するような言葉をかけ、その上で五実のまぼろし世界への未練を断ち切る意味も込めて、「正宗の心は私がもらう」と語りかけているのではないでしょうか。
睦実と五実の関係は、母でもなく、また恋敵というには五実が幼すぎる、非常に語るのが難しい関係で、そういった中でも未来へ飛び立てる者への愛として表現されていたと感じます。
子供になる大人、大人になる子供
今作では前半と後半で子供達と大人達の振る舞いが大きく異なっている点が非常に面白いです。
前半では、大人達は田舎というシステムを維持するために自分たちの欲を抑えながら淡々と生きていく人物として描かれていました。一方、子供達は自分たちのフラストレーションを一時的な快楽のままに発散し、その結果まぼろし世界を崩壊に導きかねない活力あふれる無責任な存在として描かれていました。
しかし、終盤にかけて五実を現実に返そうという段階になって、大人達(というか時宗さん)は自分たちの世界の終焉を受け入れるムードから、少しでも長くまぼろし世界を維持しようとする活動に一変します。そんな中で、正宗達は五実を現実の世界に返そうと奔走します。
五実は、未来のないまぼろし世界にとっては唯一現実で未来を紡ぐことのできる存在であり、現実で言うのであれば「子供」に相当するのではないかと思います。そういった存在を送り出そうと奔走する子供達と、私利私欲でまぼろしを維持しようとする大人達の対比に唸る、そんな演出でした。
また、まぼろしに縋る大人たちに対して、まぼろしの世界での五実への仕打ちに対してケジメをつけようとするのも子供たちで、自分の気持ちをはっきりと相手に伝えられるのも子供達でした。この辺り、すごく成長を感じれる要素でしたし、良い対比になっていたと感じます。
人間讃歌、閉塞感を恋でぶち壊せ!
告白というのは、現代社会ではそれこそ自分のいるコミュニティを壊してしまったり、あるいは自分という存在を壊してしまうぐらいのリスクがある行為かもしれません。実際に多くの人々は告白による挫折を味わうと思いますし、そういった犠牲のモチーフとして園部さんが描かれていたのかもしれません。これは公開記念舞台挨拶情報ですが、制作スタッフの中でも園部さんはキャラクターとして多くの人から共感を得ているようでした。
実際に、まぼろし世界では心の安寧が崩れることで世界ごと崩壊してしまうような描写が多数されています。しかし、絶望ではない肯定的な心の変化についてはそうではなかったのではないかと思います。
本作の素晴らしいと感じるところは、どんな人間のどんな恋心も肯定的に書くところです。大人が自分の隠していた気持ちを抑えられずに世界を維持しようとするのも、陽菜が世界を終わらせたくないと思うのも、五美が未来を捨ててでも好きな相手と居たいと言うのも、どれも非常に肯定的です。周りに迷惑をかけてでも、自分の気持ちに素直に、一生懸命に生きていいのです。
自分達に未来はないということが確定した中でも、精一杯生きる、変わらない世界の中で唯一人間の強い衝動が世界を変えることができる、そして未来へ希望を送り出すことができるというのは、岡田麿里監督なりの強い強い人間讃歌のメッセージとして受け取ることができました。
それを映像や音楽、お芝居に物語と、絶妙なミックス具合で映画として仕上げてくれて、本当にありがとうございます。
「一皮剥けた」感がある、超弩級の怪作
とはいえ、今作は怪作であると思います。
世界観は SF を見慣れていない人間には理解が難しいと思いますし、さまざまな描写には監督の持ち味である生々しさがあります。そして登場人物の行動の難解さは、一般大衆向けとは思えません。
キャッチーさを得るためなのか、いくつか不自然な点もありました。佐上衛はイカれた空っぽ人間すぎて、道具として道化すぎましたし、キスシーンについては監督もやりたかったシーンとおっしゃっていましたが、それならもっともっとやっちゃえよ!!!というところでした。思い切りが足らない。スポンサーに止められたのだろうか。とはいえ現状でも気まずさを感じる人も多発しているようです。
一方で、その力強いメッセージ性と、これまでの監督作品では味わえない後半の疾走感とエンタメ感は「空の青さを知る人よ」で頭角を見せていたものの、完全に一皮剥けて、新しいステージへ到達した感覚を覚えます。
これまでの監督は「青春もの」だったかもしれませんが、今作品は人間の生のエネルギーが「恋」という布からじんわり漏れてきたと思ったら、後半でこれでもかというぐらい爆発してくるという点で、富野監督の近年の作品のような、両手では受け取りきれないぐらいのエネルギッシュさを感じる作品でした。
初めての視聴を終えて、前半のねっとりした閉塞感、生々しい人間性、それらを全て肯定する推進力、この一筋では表現できない独特の試聴後の爽快感を持って、自分は強い賛辞の意味を込めて「怪作」と言いたいと思います。
前作「さよ朝」とは全然違う、岡田麿里らしいのですが何かが違う、そんな作品でした。
言わずもがなですが、テーマソングは本作の脚本を読んだ後に書き下ろされているというだけあって、歌詞が本編とリンクしまくっていて、この曲だけ聞くと本編がありありと思い出される、そして本作の生きることへの活力が中島みゆきの力強い声で訴えかけられる、本作にぴったりの曲でしたね。最高です。
「さよ朝」の大ファンである自分は、実は岡田麿里の初期のアニメ作品が苦手です。
今作はそんな初期の岡田麿里を彷彿とさせるモチーフが予告編の時点から多数感じられており、実は自分は今作そんなに好きになれなんじゃないかと思っていましたが、完全に予想を裏切られて大変楽しめました。
また数回は見に行きたいと思います。
本も読んだ上で、考察については後日ゆっくり書きたいと思います。
全国の劇場で上映中、応援してます。
「アリスとテレスのまぼろし工場」を観よう
このブログで最も読まれている記事は「さよ朝」の記事なのですが。
その「さよ朝」スタッフが多数参加されている「アリスとテレスのまぼろし工場」が2023年9月15日公開されます。
実はめちゃめちゃ待ってました。
ファースト PV が出た直後から一人で周りの人間に騒ぎまくってました。Filmarks にブクマして、ずっと待ってました。待ってましたよ!!!
しかし今回は恋愛を中心にした話になりそうですね、PV 見たかぎり、どちらかといえば「あの花」に近いのかな?と思っています。
小説出てます。もちろん買いました。
でもまだ読んでません!!!映像で衝撃を感じたい。その思いがありますが、まずは岡田麿里先生、封切りおめでとうございますの気持ちで買っておく、当然
観に行ったら感想書きます。ちょっと自分に刺さるジャンルではない予感を感じていますが、ワクワクは止まりませんよね。
関係者の皆様本当におめでとうございます。監督2作品目、とてもとても楽しみにしてます。
P.S.
「さよ朝 考察」で調べるとこのブログがトップに出てしまうこと、大変恐縮です...もし関係者のかたが観られていたら、あんな拙い考察を世に発表してしまい申し訳NASA...
でも「さよ朝」本当に人生の大きな糧になる映画でした。「アリスとテレスのまぼろし工場」本当に本当に楽しみにしてます。
P.S.2
これ面白かったです。自伝、また書いてね。
20代男性が結婚相談所に入会して1年戦った感想 ~あるいは大人になるということについて~
お久しぶりです。
迂用曲折あり、結婚相談所に入り1年ほど活動をしてみました。 ちなみにまだ活動は続けております。
結婚相談所に相談しに行った話については、かなり前の記事ですがこちらをご覧ください。
この記事では結婚相談所での活動で感じたことを書きます。 個別の人がどうであったとか。そう言ったことはほぼ意味がないと思っているので書きません。
- 筆者のスペック/活動状況
- 結婚相談所の問題について
- 結婚したい人が結婚相談所に来る
- みんな割り切れない
- コミュニケーションの問題
- 「試し行為」について
- 性交渉問題についてはそもそも性交渉以前の問題
- 相談所のアドバイスが人間不信をより強くしている
- その他婚活辛そう記事
- 活動してみての感想
- 男性側からみた女性
- 「この人がいい」ではなく「この人でいいや」
- 「結婚に真剣な人が多いので結婚相談所に入る」は正しいのか
- 婚姻関係の継続
- 妥協、割り切り、あるいは諦め、あるいは大人になるということ
- 大人になるための方法
- スタンドアローンとパートナー
- 結び
筆者のスペック/活動状況
フェイクは挟みますが書きます。 書く理由として、おそらく結婚相談所では登録者のスペックによって見えている世界が全く異なっているため、ある程度スペックの開示がないと状況が共有しずらいと思うからです。
スペック
- 性別: 男性
- 年齢: 20代後半(アラサー)
- 年収: 同年代平均年収より大幅に上
- 身長: 男性平均よりかなり低め
- 学歴: 大学卒
- 居住地: 東京
活動状況
- お見合い申し込み数: 20
- お見合い申し受け数: 200
- お見合い実施数: 50
- 交際数: 15(内直前での破談 3)
シン・エヴァンゲリオン劇場版感想 - 呪縛は解かれなかった
ネタバレ注意
最高の映画でした
公開日初日ですがシン・エヴァンゲリオン劇場版を観てきました。 素晴らしい終わり方でした、星5つ中100です、文句の付けようがありません。 さようなら、エヴァンゲリオン、そのセリフに一片の偽りなく、全てのカルマが精算されていくような、そんな映画でした。
シンジ/ゲンドウ/レイ/アスカ/そしてカヲル君までもが、エヴァンゲリオンという輪廻に囚われ、これまで苦しんできた様をもういいんだよといわんばかりの、大円満ハッピーエンドでした。
同時に、エヴァ自体が庵野監督を映す鏡である作品であるというのは、テレビシリーズの頃から、旧劇の頃から言われていることで、これ自体についても如何なく投影されていました。
Q で失語症になったシンジ自体を救ってくれたのは、シンジを愛してくれる人たちでした。 そして、もう一度立ち上がり、親の始めたこと、自分自身のことに決着をつけるというシナリオ自体が、庵野監督がエヴァ新劇を始めた過程での監督自身の出来事であり、そして辿り着いたゴールであると思います。
旧劇場版であんなに苦しい終わり方を描いた監督が、ここまで優しさに溢れた終わり方を描いてくれた、それだけでどこか救われたような気がして、そして監督が救われて良かったという想いで思わず劇場で涙してしまいました。
映像面でもパンフレットを読めばわかりますが、これまでで挑戦してこなかったさまざまな事に挑戦されたとのことで、本当にベテランのスタッフから、新しく加わった方までたくさんの人の想いがあの映像美を作られたんだなということがわかります。 もう一度観にいく際はその辺りも含めてしっかり観てみようと思います。
エヴァンゲリオンの呪縛は、シン・エヴァンゲオン劇場版によって間違いなく引導を渡されたと思います。 これまで本当に、私たちを楽しませてくれてありがとうございました。
でも、私の呪縛は解かれなかった
その話をします。
続きを読む初めての賃貸探しで値引き交渉を試したので感想
tl; dr
- 結局のところ、強制力がない項目については余裕で無視されるのであまり意味がない
- 不動産で働いている人間は本来取るべきではないお金について承知していながら、その料金を徴収することに何の疑問も抱いていない
- 交渉は疲れるので、最初から初期費用が安くなっている不動産会社を選ぶのが良い
あらすじ
初の賃貸住まいに伴い、下記の資料を参考に値引き交渉を試みたのでその記録
- tl; dr
- あらすじ
- 物件の地理的情報
- 各不動産会社とその対応
- P社
- 会社概要
- 交渉
- H 社
- 会社概要
- 交渉
- M社
- 会社概要
- 交渉
- E社
- 会社概要
- MS 系社
- 会社概要
- N社
- 会社概要
- 交渉
- P社
- 感想
結婚相談所に無料相談しに行ってきたが結局入会しなかった話
前回までのあらすじ
ということで、性懲りも無くマッチングアプリ大戦に飛び込もうとしていたのですが
- マッチングアプリをする心の体力が残っていなかった
- そもそも恋愛はもう良いので結婚したい
という気持ちがあったので結婚相談所に入れば良いのでは?と思い、悩みつつとりあえずは相談だーということで無料相談に行ってきました。 結局は入らなかったのですが今回の体験を書いていこうと思います。
- 前回までのあらすじ
- 行ったところ
- 当日まで
- 当日
- 感想
- 知見
- 女性のボリュームゾーンは 30 代前半
- クリエイター割引の定義について
- 婚前前交渉不可
- その後
行ったところ
某オタクに優しい結婚相談所でアピールしている同人誌扱ってる所に行きました。理由として
- オタクっぽい気質の人の方が一緒にいて過ごしやすいと思ったため
- 創作活動をしている人を尊敬している
- いつもど正論なツイートをしているのを見ているので、どういう人が働いているのか気になったため
などがあります。
続きを読むDell P2421DC を購入したのでレビュー
TD;TL
- QHD 24 インチは文字が読めなくもない
- USB-C 最高
- P2421DCはいいぞ
あらまし
昨今のリモートワークの流れに逆らうことなく、今の勤務先もリモートワーク期間が開始された。
リモートワークにあたり、自宅のPCコーナーがオフィスワークのように長時間座ることを前提に設計されていないために、急遽仕事用のデスク環境を用意する必要に迫られた。
整備にあたって一番必要と思われたのがディスプレイだ。オフィスでは2枚のFullHDディスプレイが支給されているため、同じく支給されたノートPCと合わせて3枚のディスプレイを利用することができた。
自宅では FullHD 1枚 + iPad Pro 11 inch (DuetDisplay で接続) + ノートPCの3枚で対応していたが、ディスプレイの高さの問題で限界を感じていた。
のでディスプレイを買いたかったのだが、QHD + USB-C + コストパフォーマンスがちょうどいい感じ、というディスプレイがなかなか見つからなかった。
そんな中巡り合ったのが Dell P2421DC だったのだが、誰もレビューを上げていないので購入の決定にかなり迷った。
ので買ってみてレビューしてみることにした。
この記事が
- 24 インチQHD ディスプレイ
- USB-C ディスプレイ
- P2421DC
が気になっている人の助けになると嬉しい
製品詳細
公式サイトを Check!!(丸投げ)
開封&セッティング
3月末に注文した時点では 3 営業日で配達が完了した。
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