オタクをはなさないで

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「さよならの朝に約束の花をかざろう」が死ぬほど面白かったので感想・考察

追記
考察記事を新規に書きました。

dontleave.hatenablog.jp

追記終わり

はじめに

さよならの朝に約束の花をかざろう」(以下さよ朝)が死ぬほど面白かった。

劇場で予告が流れていた頃から面白そうだとは思っていたが、監督が岡田麿里さんということで斜に構えてた。

なにせ自分には「あの花」は刺さらなかったし、「ここさけ」は寧ろ面白くないと思ったし、大好きなガンダムシリーズでオルフェンズでなかなか色々やってくれたのでもうめちゃくちゃ斜に構えて観に行った。

予想は大きく裏切られた、岡田麿里さんは超すごいし、この作品に関わった全ての人に感謝しかない。

近年見たアニメ映画の中でほぼトップの面白さだし絵も音楽もアニメーションもストーリーも何もかも良かった。

何がそんなにすごかったのか、まだ見に行ってない人の為に解説したいところだが、

本作は前情報を一切持たないで観に行った方が絶対に良い。絶対時間を無駄にはさせないから観に行って欲しい

ので、公式トレーラーでも観ていただく感じで

youtu.be

これ以外のトレーラーは見ない方が良い、後公式ホームページもHISTORYってページは見ちゃ駄目、ネタバレ満載なので。

とにかくまだ観ていない人がいたら観て欲しい。今まで岡田麿里さんがやって来たものはあるけど、魅せ方が全然違う。

4月上旬には上映が終了してしまう映画館もあるので、本当今すぐ行って欲しい。絶対良い。間違いなくあなたの人生に影響を与える。

以下、どこが凄いか解説していく。感想・考察についてはネタバレ満載である為鑑賞前に読むことはオススメしない。

エルフが輝くストーリー

「エルフの話」と話を聞けば、それなりにファンタジーを愛好している人であれば幾度か出会ったことがあるだろう。

ただ、飛び道具的なサブキャラクターとしての登場であったり、エルフというバックグラウンドを持つ人物たちが描く一コマの時という描かれ方をする場合が多いと、個人的な経験から思う。

残念ながら私はエルフが主人公として出て、人の人生ほどの長い時を過ごす姿を描く作品を知らない。知っていたとしてもその過程の描写が大幅に省略されている。

さよ朝は「イオルフ」という呼び方をされているが、その実は人より長く生き歳を取らないというエルフ的な人々が物語の主人公である。

彼女たちが人よりずっと生き、美しいままでいる、それによって起こるドラマを、2時間弱じっくりと描写してくれる。特に今作は、イオルフの母と人間の子供という切り口で、いつか来る死別を前提として、別れの一族としての運命を、イオルフの3人の男女達がどう辿りどう受け入れるのか、それを2時間という長いようで短い時間にじっくりと凝縮してくれている。

これだけで、こういうファンタジーが好きな人はお腹いっぱいになれるほどに、素敵な内容が描写されている。

母と子、別れ、愛

本作はイオルフのマキアと、孤児のエリアルとの間にある母と子の関係を作品の主軸に起き、基本的にこのスタンスは変わらない。

しかしそれ以外にも実に多彩な関係が描写される。レイリアとメドメルは、別の母と子の関係を描くし、クリムは種族を描いている。ラングとエリアルの成人後は、異なる男性の生き方を書き、ディタは女性と女性の関係、ディタとエリアルは夫婦を描いている・・・という具合で、絞られた登場人物の中でそれぞれの関係を濃密に描写している。そのどれもがしっかりと時間を割かれているので、説明不足で意味不明ということはなく、観ていて飽きない。

そして、別れの一族としての避けられない別れ、その先にある愛の形を、是非観て確かめて頂きたい。

生き生きとしたキャラクターを写し出すアニメーション

さよ朝ではキャラクターの感情描写が非常に重要だが、それを表現する為のキャラクター表情のアニメーションがものすごく生き生きとしている。や、もうアニメーション技法とかの語彙がないので観てとしか言いようがないのだが、とにかくあのアニメではキャラクターは1フレーム毎に生きていると思えるくらい生き生きとした表情なのだ。特にマキアの鉄鋼の街での動きは、愛おしく生き生きとしていて・・・とにかく観て・・・。

バカでもわかる直感的な演出

私は良い演出というのをわかっている訳ではないが、さよ朝は状況を説明する演出が実に直感的に配置されていて、そのシーンを説明する画面のパーツが馬鹿でもわかるぐらい分かりやすい。詳しくは考察で述べるが、誰にでもわかるように演出をするというのはなかなか大変なのではないだろうか。ある程度わかってしまうからこそ、「ならこのシーンのこれは・・・?」とどんどん作家の意図を見つけたくなって来る、そんな仕掛けが施されている。演出担当の方々ほんとすごい・・・。

全てが調和した至高の115分

以上のようにストーリー、世界観、アニメーション、演出に加えて、音楽や撮影、台詞回し、キャラクターデザイン、背景デザイン、etc...

そのどれもが全て調和して一分一秒を刻んでいく異次元の融合度を見せた総合芸術になっていると私は感じた。そもそもアニメとはそういうものであるが、そのシナジーがさよ朝は高過ぎて圧倒される。最高の115分を絶対に劇場で堪能するべき。

キャラクター感想(と少し考察)(ネタバレあり)

以下、ガンガンネタバレしていくので観てない人は見ない方が良い。後書いてみて、ほぼ感想になってしまったので申し訳なさ。勢いに任せて書いたので、思いついたら順次加筆修正して行く。

ではネタバレ全開のHISTORYページを見ながら、振り返って見よう

sayoasa.jp

マキア

イオルフのマキア、本作の主人公。両親がいない為、里では寂しい思いをしていたマキア。

メザーテによる里の襲撃により、彼女の友も、彼女の為に泣いてくれたヒビオルの布も全て消失してしまう。彼女は本当の一人にここでなってしまっている。

もう何も残っていない彼女は静かに泣きながら、この世に別れを告げようとする時、赤子の泣き声が聞こえてくる。

長老に「ヒビオルがお前と共に泣いてくれる」と言われた直後に、全てを失い一人ぼっちになった彼女と共に泣いてくれたのは、同じく母を失い一人ぼっちになった赤子のエリアルだった。

いや〜〜〜〜〜〜ずるいやん!!!!もう既に言葉運びがずるい!!!それはマキアだってヒビオルだって思うよ!!!!

それで、マキアは母として頑張ってくけどさ、もうそれは一生懸命に頑張るじゃん!!大切なものは全部なくなっちゃってさ、耐えられないよ!!でもエリアルを必死に育てるじゃん!!エリアルを名付ける時も、最初にレイリアって言ってさ、その時点ではエリアルは失ったものの代わりにしようって気持ちも少なからずあったと思う。でもエリアルって名付けて長い時を共に過ごしてさ、レイリアと再会する頃にはエリアルエリアルとして大切に思っている。そういう描写が何十分と通して描いてくれるのがもうほんと好き。

そして、なんと言っても犬との別れをしっかり最初に持ってくる。マキアの、外の世界の寿命とのファーストコンタクトをしっかりと描いて、マキアにも視聴者にも別れの運命を印象付けてくる。この時の、マキアの泣き顔と演技がもう・・・絶対泣いちゃう。

その後、マキアはレイリアを助けに行く過程で、久々にイヨルフとして動くけど、「お母さんじゃないみたい」「君は足手まとい」と言われるようにイヨルフとしても母としても中途半端だって突き付けられて、自分の未熟さに腹が立って次の町ではエリアルにきつく当たってしまったりして・・・。やもう本当に、作中で起こる事がその何十分も前から動機付けを脈々と続けられるのがほんと本作はすごい。

で、鉄鋼の町でのマキアはもう本当逞しい、最初にイオルフの里を出てきた時とは変わって、生き生きとして、毎日生きるので精一杯かもしれないけど、一番楽しい時期だったんだろうなと思う。アニメーションも、エリアルのことを話すときは本当に生き生きとしてる。特にラングにエリアルの話をする時とかもう本当に好き。

思春期で、母との関係に悩むエリアルの事を母としてずっと支えている描写がほんと健気で夜勤明けの軽食を作ってくれたり、エリアルが出て行く時もずっと笑顔で行ってらっしゃいって送り出して・・・。母の貫禄を感じる一方で、エリアルからは「本当の母親と思ってない」って言われて崩れ落ちる時はもう・・・。

そして、最後の戦いではマキアは産婆としてディタとエリアルの赤ちゃんが生まれるのを助ける。母からお祖母さんに変わっていく。マキアはもう泣き虫の里のマキアじゃなくて、立派なお母さんなんだなって思えて・・・。

そしてエリアルとの再会では「エリアルのお母さん」の話をする。まるで自分はお母さんじゃないって宣言してるみたいに。6年前に「本当の母親と思っていない」と言われたことをずっと、ずっと幽閉された中で考えていたんだろうなと思うとやりきれない気持ちになる。でもマキアにとってエリアルは子供だとか、そういう関係性を越えた「愛してる人」なんだなっていう、更に進化した思いを抱く人である事も示されて・・・。

それでもマキアは自分の場所に、エリアルは妻と子の帰る場所に帰るんだなって・・・もうほんと・・・別れのシーンもマキアが去っていく方向には、静かな水辺の中に橋と塔がある。これは完全にイオルフの里を思い出させるし、ほんと演出がすごい。

エリアルが成長と共に正直に生きてきたのに対して、マキアはエリアルと一緒にいる方法がお母さんであると思って健気にお母さんをしてきたのがもう・・・。

ここはパンフレットの受け売りなのだが、最後の「エリアルが呼んでくれる名前が私の名前になる」というセリフでは、エリアルと別れる前のエリアルの気持ちを汲んで言った発言らしいのですが、その後に母さんと言われてしまったので、ある意味振られたとか・・・それでも母としてイオルフとして去っていく姿は本当に綺麗で儚い。

結局マキアはイオルフとして生きていくのだけど、マキアの中にはずっとエリアルがいる。だから愛して良かったんだなって・・・。最後の別れも、マキアは最後まで母さんとして、エリアルが呼んでくれた名前で、約束を守ろうとして・・・。

岡田麿里さんがパンフで「人間の関係性の変化を書きたい」と書いていたが、ものすごおおおおおおおくよくかけてると思う。

見終わってからマキアのことしか考えられなくなった。

エリアル

もう一人のひとりぼっち。マキアが故郷や友人がある分、エリアルの方こそ本当の一人である。

子供時代は母さんに甘えたい子供として順当だったけど、思春期から難しいね・・・あれは難しい。

私は3回観たんですが、結局自分では「こんな気持ち、気づいてしまった」の部分、どんな気持ちだったのかわからなかった。というかわかりたくなかったというか、パンフレットにはっきりと「恋心」と書いてあったので、まあそうなるよね、そりゃ好きになる。

だからこそ子供扱いが耐えられないんだろうなとか、酔っ払った時にビンタされたのはこたえただろうなぁ・・・とか、でも自分でもひとりぼっちでマキアがいたから今があるっていう気持ちもあって。守るって言ったのに守れない悔しさとか、背負いきれないだろうなって。

でもしっかり立派になって、自分でマキアがいなくても居場所を作って、妻と子供を守る為に戦う姿は本当に逞しくなって。

最後あの時のマキアに行かないでくれって言ったのはどういう気持ちだったのか。わからないけど、誰でもあの瞬間は言いたくなる、劇場みんなが言いたかったと思う。なぜかわからないけど。きっとエリアルもそうだったのかもしれない。

本当に色々な感情が混ざってて、本作は見応えがありすぎる。

レイリア

本作のもう一人の母、マキアと同じ年頃のイオルフの娘。冒頭にレイリアが飛ぶけど、見直した時にはレイリアが飛ぶシーンだけで涙が出てくる。

レイリアは魅せ方が本当に凄い。里では天真爛漫で元気だったのに、王都に来るといつも日陰にいる。マキアとの再会の時も、マキアは日が当たっていてレイリアは日が当たっていない。結局レイリアが日の目を見たのは最後に塔の上に出てきた時、それまではずっと暗闇の中で耐えてきたんだなって・・・。

また彼女の髪型にも注目。レイリアが髪を結んでいない時はイオルフのレイリアだが、髪を結んでいる時はレイリア姫なのだ。ここら辺の書き分けをきっちりできているのが本当に好き。

彼女はマキアと同じ母親だが、マキアとは大きく違う人生を辿ってしまう。マキアもレイリアも一人ぼっちになってしまうが、マキアはエリアルが側にいた一方、レイリアには周りに誰もいなかった。その孤独に耐え続けるのがどれほど辛かったのか、想像するのも恐ろしい。

実の子のメドメルに会いたい一心で王都での生活を耐え続けた、彼女の最後は物凄く悲しかった。物理的には彼女は自由の身になったが、メドメルの中にレイリアがいない事を、ようやく会えたタイミングで知ってしまったのだ。だから娘との待望の再会でも、彼女は母としてのレイリアではなく、イオルフのレイリアとして振る舞った。母としての彼女は結局どこにもいなかったのかもしれない。

だから彼女は忘れるのだと思う。城での生活は、誰の中にもないレイリア一人の戦いだった。メドメルとの出会いも、レイリアにとってもメドメルにとってもほんの小さなほころびだったのだ。二人には血の繋がり以外には何も共有されるものがなかったのだから。それでもこんな美しい世界、忘れられるわけがないのだ・・・

描写時間は短いのにレイリアはめちゃくちゃ存在感がある。

クリム

イオルフの少年。本作で1番可哀想なのではないだろうか。

クリムはレイリアと恋仲にあったが、二人の間は引き裂かれ、クリムは純粋にレイリアを追い続けた。

ただ、クリムは変わらなさすぎたのだ。マキアやレイリアが子供達の成長と共に時を進めたのに対して、長い年月を過ごすイオルフの民らしく生きた。

クリムが変わらない事は作中で登場する度に印象付けられる。例えばマキアとの再会時、長老の教えのこと思い出させたり、マキアの髪を切るときにイオルフの掟の事にやけにこだわったり、衣装も彼は頑なにイオルフの格好を守ろうとしている。

そんな彼はずっと一人で苦しんできたのに、最後にはレイリアに受け入れられなかった。マキアもレイリアも、イオルフとしての人生から、自らの人生を歩んだ時間が多すぎた、時を進めてしまった。なのにクリムだけはずっと、ある意味彼なりに一族を守っていたのかもしれない。

状況に柔軟に対応できた女性達の方が生きる力は強いだろうけど、報われなかったクリムは本当に悲しい。最後に彼が息をひきとる場所も、レイリアが「イオルフの塔に似ている」と言っていた龍の庭。彼は最後までイオルフから抜け出せなかったっていうのを感じてしまって、ほんともうやるせない。

ラング

真人間、人間の鑑。こいつはマジでサイボーグかってぐらい誠実な人間。人の幸せを願うだけではなく、自身が幸せになってほしい。

終わりに

パンフレットは売り切れてるし、グッズが少ない。もうすぐ上映も終わってしまう。どうしよう・・・。

とりあえずBDは特典てんこ盛りにして出してほしい。

こんなに意図された気持ちが伝わってきて、あ〜〜泣かせにきてるなって思うのに、わかってても泣いてしまう映画。本当に出会えて良かった。上映が終わるまでに、あと何回かはマキアに会いにいきたい。

本当に素敵な映画だった。みんなみて。